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時代と闘った女

ムーランの旧兵舎、今は国立舞台衣装センター(舞台芸術の好きな方にはお勧め)

『ココ・シャネル 時代と闘った女』を観ました。

同時代の写真、映像をつなぎ合わせながら語られる、謎の多いひとりの女の一生。力作でした。

冒頭でまず、有名な孤児院のエピソードが全否定されてびっくり。

シャネルブランドの商品イメージと修道院とをリンクさせた神話を打ち砕いて始まる55分の映像作品です。

「目立つためなら何でもした」というパリ時代のスタート、対独協力者としてパリに居られなかった戦後の10年間、香水事業で盤石な資金源を得てからはモードとの乖離。

容赦なく淡々と語られるエピソードは興味深く、観終わってようやく、何かの象徴でなく血の通った人間像が出来た感じです。

自立を目指して戦ってきたシャネルが旗を降ろす相手、オーナーのヴェルテメール家との確執は、機会があればもう少し知りたい。

なお、シャネル女史は早口なので(笑)字幕が到底足りず、フランス語を聞いて理解できる人は3割増しで楽しめそうでした。

水を飲む

まことに都合よく公演日程変更があって、ザハロワ&レーピンの舞台を見に行くことに。

上演時間一時間半で、休憩なし。こういう時期に丁度よいスモールスケール。

考えてみたら、生演奏の舞台は一昨年末のゲルギエフ以来です。(先日の『羅生門』で笙の演奏はありましたが・・・)

レーピンのヴァイオリンに合わせてライモンダを踊るキラキラしたザハロワを見ながら、あぁこれは必要だとしみじみ感じました。

水を飲んで初めて喉の乾きに気づくことがありますが、そんな感じ。

一時間半のあいだに6演目を踊り切るザハロワが、ただただすごい。もちろん衣装やヘアメイクもその度に完璧にチェンジ。
一流のバレエダンサーだからといってこの方の踊るもの全てが好みという訳ではないのですが、このプログラムでは彼女のダンサーとしての魅力とともに、高いプロ意識に感動させられます。

このシリーズの公演に出かけるのは2016年の初公演以来の2度め。

その時に一番良かったと思った『Revelation』は今回も良く、初回にはなかったビゴンゼッティの『カラヴァッジョ』がまたとても良くて、いつか全部見たいと思いました。

最後のシメ『Les Lutins』も冒頭のレーピンとロブーヒンの掛け合いが時流を取り入れてアップデートされていて、漫才風味で面白かった!

本拠地のボリショイ劇場が夏休み中だからとはいえ、ザハロワと踊る男性ダンサー陣がかなりの豪華メンバー。

この困難の中、公演を実現させてくれた方々すべてに感謝です。

イスラーム王朝とムスリムの世界 展 ジュエリー編

東京国立博物館東洋館で開催中の「イスラーム王朝とムスリムの世界」展へ。

マレーシア・クアラルンプールにあるイスラーム美術館の所蔵品から選りすぐりの、200点ほどが見られます。
幸い会場内は撮影O.K.でしたので、面白かったものから、今日はジュエリーにまつわるものをいくつか。

ムガール朝皇后像、12人のムガール朝の皇后が象牙板に油彩で描かれた細密画。

皆さんの顔の両側に垂れ下がるジュエリーはこのあたりのエリアに独特の「こめかみ飾り」です。おそらく、耳たぶに下げられる程度の宝石では物足りなかったのでしょう。

そういえば日本でも江戸時代、遊女を中心に巨大な結髪が流行ったのは多分、かんざしをたくさん着けるため。

ムガール朝の貴族は、人類史上一番たくさん宝石を身に着けた人々だったのではないかと思います。女性も男性もふんだんに着けていました。

こんな風に。狩りの装いということで、これでも装身具は控えめ。
ふんだんに着けられた白い粒粒はすべて真珠です。

20世紀半ばを境に、「粒ぞろいの真珠」の意味はがらりと変わります。
この頃はまだ、人が海に潜って貝を採集し真珠を探していた時代。大きさの揃った真珠はそれだけの数を集められるという権力の証でした。

そしてこの肖像画では、ヨーロッパ文化の影響を受けて勲章まで加わっています。

何かのしるしというよりも、それまでなかった宝飾アイテムとして即取り入れられたのではと想像します。デザインもヨーロッパ風。

細密画の肖像の、視線の外し方がちょっと面白いです。ここまで横目の肖像画も珍しい。

総ダイヤのコスチュームジュエリーもさらっと展示してありました。

展示会の会期は2022年の2月20日までなので、もう一度くらいは行きたいです。

トップの写真は2013年にクアラルンプールを訪れた際に撮った現地の丸天井。素敵な充実した美術館でした。

暑さが続きます。
うまくやり過ごし(日本らしい表現!)、どうぞよい週末をお過ごしください。

雲を見に

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風景画をたくさん見たくて、三菱一号館美術館へ。
ターナーと同世代の画家、コンスタブルの英国風景画を見てきました。
ドラマティックな空と、空の光に説得力をもたせる木陰の描き込みが美しい風景。
たくさんの雲の表情を眺めることができます。

コンスタブルは英国のさまざまな場所に滞在し、戸外での製作に重きをおきますが、この製作スタイルはチューブ入り絵の具が発売されたことで可能になったとか。なるほどね。

風景画の光と影といえば、先日東京都美術館で見た吉田博展も良かったです。
ハイライトを白で入れられる油彩と違い、版画での光の表現は摺り残すしかなく、摺り(=影)で光を表現することになります。
平均で三十数回摺り重ねられるという作品、どれもカラートーンが美しく、気に入った作品の前ではしばらく立ち尽くしてしまいました。

話は戻ってコンスタブル。
展示作品のなかには肖像画もいくつかあったのですが、どれも瞳が綺麗だったのが不思議。
肖像画では唯一、光の灯るポイントだからかもしれません。

トップの写真はちょうど半年前の湿原。
風景画をたくさん見て、ふたたび大きな空を見たくなりました。

香りの器

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汐留美術館の「香りの器」展を見てきました。
手のひらサイズに美しくつくられた古今東西の工芸品の、可愛らしいこと。

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濃いめブルーのウエッジウッド。オクタゴンのクラシック。
蓋がまた。

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ペールグリーンの花のつぼみ。

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有史以前から私はここに居ました、と言われても驚かない完全なかたち。
モノがここに落ち着くのに必要なのはただ、クリエイターの磨かれた感覚。
蓋には三羽の蝶が控えめに。

展示品で一番気に入ったのは、9世紀か10世紀ごろの「二重円圏カット装飾香油瓶」と「桐鳳凰文鎖付香水瓶
」です。(どちらも残念、撮影不可でした)
前者のガラスは変質して(ローマングラスと同じ、銀化というそう)、虹色に輝いています。土もついてざらざらで透明ではなくなっているのに、佇まいの透明感が不思議。
後者はひと目で解る日本製。最上級の作りのものだけが持つ気品があります。そして菊の鎖がたまりません。

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ガラス越しの水仙を横目に、美術館を後にしました。

あと数日で立春。
もうすぐ、白梅や沈丁花や水仙、香りの楽しい季節になります。