月の光のようなシルバーの光沢。
シルバーというとクールなイメージですが、蒔絵の銀は何となくあたたかく、それには理由があります。
漆は樹木から採れる樹液。
樹木から採れたばかりの漆はミルクキャラメルのような色、水分を飛ばして精製すると濁りがとれて紅茶のような色になり、長期保存や用途ごとの加工ができる状態になります。
一般的に漆というと黒のイメージがありますが、鉄分を加えて作った黒い漆も薄めていくとセピア色に。実は赤みの黒なのです。
銀の蒔絵は、描いた漆が固まらないうちに(焦らなくても大丈夫、しばらく固まりません)粉末の銀を蒔き、固まったあとさらに、漆で固めてから磨き上げます。
そのため、磨き上げたメタリックな銀の光沢のなかには僅かな漆の色が潜んでいます。
人の感覚は目に見えない漆の色のニュアンスを感じるのですね。
ところで、銀の光の話でいつも思い出すのがサマセット・モームの『人間の絆』。
高校時代に読んだきりなのですが、主人公フィリップが、憧れの女性のオーラを銀色に例えていたことをなぜかずっと記憶しています。