ふたたび製作過程のご紹介です。
写真で手にしているのは筆ではありません。
さて何でしょう?
答えは鯛の歯です。 正しくは、鯛の歯を筆軸にくっつけたもの。
鯛牙(たいき)といって、蒔絵技法には欠かせない一般的な道具です。
蒔絵は金属粉を蒔いて、磨いて仕上げます。
金も銀も純度は高い(100%)のですが、所詮粉なので、磨いても無垢の金属に比べれば質感はマットです。
そこで、一通り仕上げた後に、もう少し光らせたいなと思った部分は、この鯛の歯で表面をさらさらと擦って、磨くことがあります。凹凸をつぶして滑らかにする感じ。
細かい部分にも、痒いところに手が届くようにこの小さくて硬い鯛の歯が活躍します。
ごく細い線も、仕上げにちょっと擦ればフォーカスが合ったように全体が引き締まります。
天然の鯛はちょうど今が旬。
先日もお魚屋さんで立派な鯛を頂きましたが、それでも歯の大きさは、この道具を作れるほどではありませんでした。
この歯の持ち主は元々どんな大きさの鯛だったのか?なぜ他の魚でなく鯛が使われるのか?
この道具を使うときはいつも考えます。
ちなみに正教会のイコンの背景によくある金箔貼りも、仕上げに似たような磨きの作業があるそうです。
以前イコン画の美術展でイコンの背景金箔磨き道具(何か固有名詞はないのかな)を見ましたが、牙のような形状にカービングされためのうでした。
昔はなにかの動物の牙を使っていたのではないかと勝手に想像しています。